こんにちは。福岡市で企業法務を中心に業務をしている弁護士の小田誠です。今日は、固定残業手当について解説していきます。うまく使えば経営者にとってメリットが大きいですが、運用を間違えると多大な残業代の支払を命じられてしまうリスクがあります。
この記事のポイント
- 固定残業代制度の仕組みと導入の注意点がわかる
- 裁判例を踏まえた“違法認定されるケース”を明示
- 企業法務に精通した弁護士が、実務に役立つノウハウを提供
目次 [非表示]
1. 固定残業手当とは?【図解】
まずは基本を押さえましょう。
固定残業代とは、毎月の給与の中に、あらかじめ一定時間分の残業代を含めて支払う制度です。
一般的な給与明細の構成(図)
項目 | 金額(例) |
---|---|
基本給 | 200,000円 |
固定残業代(30時間分) | 60,000円 |
通勤手当 | 10,000円 |
総支給額 | 270,000円 |
ポイント: 残業があってもなくても、毎月60,000円が支給される設計です。
2. なぜ固定残業代を導入するのか?【経営者視点】
メリット
- 毎月の人件費が読める
- 残業代の計算業務が軽減される
- 労働時間の自己管理を促進できる
リスク
- 制度設計を誤ると違法となり、未払残業代請求リスクが発生
- トラブル発生時に「全額無効」→ 数百万円の支払い命令も
3. 違法とされた実例【重要裁判例を図解で解説】
重要裁判例:日本ケミカル事件(最高裁平成30年7月19日)
判旨(要旨):
「使用者が労働者に対し,雇用契約に基づいて定額の手当を支払った場合において,当該手当は当該雇用契約において時間外労働,休日労働及び深夜労働に対する対価として支払われるものとされていたにもかかわらず,当該手当を上回る金額の割増賃金請求権が発生した事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組みが備わっていないなどとして,当該手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」
判決で指摘されたNG例:
名目 | 金額 | 説明 |
---|---|---|
基本給 | 基本給200,000円+残業代60,000円 | 内訳の記載あり |
(実際には) | 基本給200,000円+残業代60,000円 | との主張だったが原審では固定残業代を超える残業代の支払がないことなどを理由として認められず |
【裁判所の判断】
- 基本給と時間外手当の区別が明確であり、実質的にも時間外手当として支払ったといえる場合、低額残業代の支払により割増賃金の支払と認められる。
4. 合法な固定残業代制度にするための要件【チェックリスト】
要件 | 解説 |
---|---|
固定残業代の対象時間・金額・超過分の別途支払い等を明確に | |
基本給と固定残業代を分けて表示 | |
固定時間を超えた残業には割増賃金を支払う必要あり |
合法な給与明細(基本給と固定残業代を明確に区別している)
基本給:200,000円
固定残業代(30時間分):60,000円
※超過分は別途支給
5. よくある誤解と対応策
誤解 | 正しい理解 |
---|---|
「一律で手当を支払っていれば大丈夫」 | 内訳明示が必要 |
「36協定を出していれば問題ない」 | 固定残業代の合法性とは別問題 |
「裁判になっても大したことはない」 | 数百万円〜千万円単位のリスクあり |
特に気を付けてほしいのが、固定残業代を支払っていても超過分の追加支払いは必ず必要ということです。
つまり上記の例で20時間分の時間外手当を支払っていますが、20時間を超える残業をした場合は当然ながら超過分の支払が必要になります。
6. 顧問弁護士としてのご提案:固定残業代を巡る労務リスクはこう防ぐ
私はこれまで、中小企業から上場企業まで多数の労務トラブル対応を経験してきました。固定残業代制度を導入・見直しする際には、以下のようなサポートをご提供できます。
サービス内容(例)
- 雇用契約書・就業規則のチェックと修正
- 固定残業代制度の導入コンサルティング
- 労基署対応や未払残業代請求の防止対策
- 社員説明資料の作成支援
7. まとめ:制度を理解して、強い会社をつくろう
固定残業代は、正しく使えば非常に便利な制度です。しかし、制度設計を誤れば、重大な法的リスクとなります。
「基本給との明確な区別」がなければ、制度自体が無効となりかねません。
経営に専念するためにも、専門家のサポートを活用してください。
参考:厚労省「固定残業時間制の適切な運用について」
弁護士プロフィール:小田誠(福岡県弁護士会所属)
- 労務トラブル対応・予防の実績多数
- 中小企業の顧問先多数
- 柔軟な契約形態・明朗な報酬体系
- 初回相談無料・オンライン対応可
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