働き方改革や人手不足が叫ばれる昨今、従業員の労働時間を柔軟に設計するために「変形労働時間制」の導入を検討する企業が増えています。
しかし――制度を誤って運用すると、未払い残業代請求や制度の無効化による高額な損害が生じかねません。今回は、変形労働時間制の基本から実務上の注意点、訴訟事例まで、経営者の方に向けて徹底解説します。
目次
変形労働時間制とは?
通常、1日8時間・週40時間を超えて労働させると、割増賃金(残業代)の支払いが必要になります。しかし、業務の繁閑に応じて労働時間を調整できる制度が「変形労働時間制」です。
📊【図1】変形労働時間制の種類と概要
制度名 | 対象期間 | 導入方法 | 特徴 |
---|---|---|---|
1か月単位の変形労働時間制 | 最長1か月 | 就業規則 | 中小企業でも導入しやすい |
1年単位の変形労働時間制 | 最長1年 | 労使協定 | 繁閑の大きい業種に有効 |
1週間単位の非定型的変形労働時間制 | 1週間 | 労使協定 | 主にパートタイマー向け |
フレックスタイム制 | 最長3か月(※) | 労使協定 | 従業員の裁量が大きい |
※2023年の法改正で精算期間が最大3か月に延長されました。

実際にどれくらいの企業が導入している?
📈【図2】変形労働時間制の導入状況(厚生労働省「就労条件総合調査」より)
- 変形労働時間制を採用している企業:約40%
- 中でも「1か月単位の変形労働時間制」が最多
- 大企業に比べて中小企業の導入率は低め
導入を検討している経営者にとっては、ライバル企業との差別化や働きやすい職場づくりの一環にもなり得ます。
制度を有効にするための「4つの要件」
制度を有効に機能させるには、次の点に注意が必要です。
✅【図3】制度の有効要件チェックリスト
要件 | 内容 |
---|---|
1. 導入根拠 | 就業規則または労使協定に明記が必要 |
2. 適正な手続 | 従業員代表の選出・署名など法的手続が必要 |
3. 労働時間の設定 | 上限時間や休日の明示 |
4. 運用の適正性 | シフト表を事前に明示して予測可能性を与える |
✅ 就業規則の不備や手続ミスがあると制度は無効となります。
よくあるトラブルと訴訟例
制度を導入したものの、以下のようなトラブルで裁判になったケースがあります。
⚖️【実例1】従業員代表の選出が無効とされたケース
- 問題点:会社が任意で選んだ「従業員代表」が実質的に上司だった
- 結果:手続不備と判断され制度無効、訴訟で敗訴
⚖️【実例2】事前にシフトを明示していなかったケース
- 問題点:①十分な余裕をもって事前にシフト表を明示しておらず、従業員が勤務時間を把握できない
- ②事前に伝えたシフト表をコロコロ変更する
- 結果:不適切な運用と判断され制度無効、訴訟で敗訴
制度が無効とされた場合の「経営者側の不利益」
変形労働時間制が無効になると、以下のような損害が生じ得ます。
🚨【図4】制度無効のリスクと損害例
リスク | 内容 |
---|---|
未払い残業代の発生 | 制度がなければ、超過分は全て割増賃金に |
過去にさかのぼった請求 | 最大3年間、残業代請求が可能 |
労基署からの是正勧告 | 是正指導や書類送検のリスクも |
社内の信頼喪失 | 従業員のモチベーション低下・離職につながることも |
✅ 安心・合法に制度を活用するには?
経営者としては、正しい制度設計と書類作成、手続の適正化が不可欠です。以下のようなサポートを、弁護士に依頼することで受けられます。
💼 弁護士に依頼するメリット
- 就業規則・労使協定のリーガルチェック
- 制度導入時の手続サポート
- トラブル発生時の交渉・対応
- 将来の訴訟リスクを見越した予防策の提案
法律の落とし穴を見逃さず、安心して制度を活用するためにも、弁護士と連携した制度導入を強くお勧めします。
参考:厚生労働省「変形労働時間制」
まとめ|変形労働時間制の導入は慎重に。早めの相談がカギ
変形労働時間制は、企業にとって大きな武器になり得る制度ですが、形式だけの導入ではリスクが高すぎるのが実情です。実務上、変形労働時間制を適切に導入・運用している企業は非常に稀で、労働者側から争われると敗訴するケースがとても多いのが現状です。
制度を導入済みの企業も、今一度、自社の制度が「法的に有効かどうか」を見直す必要があります。
お悩みの方は、ぜひ一度、労務に強い弁護士へご相談ください。
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☎電話番号:050-5785-3630
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