今回は、交通事故の被害に遭われた自営業者の方からご依頼いただいた事案についてご紹介します。
特に、自営業者における「逸失利益の算定方法」について、実務上の工夫やポイントを踏まえて解説します。
事案の概要
依頼者は、ある日タクシーに乗車中、タクシードライバーの不注意運転によりトラックと衝突するという事故に巻き込まれました。
この事故により、依頼者は顔面神経痛という後遺障害(14級9号)が残るほどのケガを負い、日常生活や仕事に支障をきたす状況となりました。
依頼者は自営業者で、一定の売上はあるものの、節税対策をしっかり講じていたため、確定申告上の「所得」は低く抑えられていました。
保険会社は、その確定申告上の所得を基に逸失利益を低く見積もり、示談金の提示をしてきたのです。
問題点と解決へのアプローチ
自営業者の場合、確定申告書の所得金額を基に逸失利益を算定するのが原則とされています。
しかし実務上、自営業者には以下のような事情がよくあります:
- 節税目的で必要以上に経費を計上している
- 実際の生活水準に比べて所得が不自然に低く設定されている
- 所得と実際の事業利益に乖離がある
このような場合、単純に申告所得をベースにすると、不当に低い損害額が算定されるおそれがあります。
そこで私は、依頼者から売上台帳、経費明細、通帳などの資料を取り寄せ、まずは直近3か月間の実際のキャッシュフローを詳細に分析しました。
そのうえで、課税所得ではなく、「実際に事業から得られていた利益(実質所得)」を基に、逸失利益を再計算した資料を作成しました。
このようなアプローチは、単なる感情的な主張ではなく、客観的な資料に基づいた合理的な算定根拠を提示することになり、保険会社との交渉において非常に有効です。
交渉と解決のポイント
依頼者は裁判を希望していなかったため、今回は裁判をせずに示談交渉による解決を目指しました。
保険会社は当初、確定申告上の所得を前提とした金額を固持していましたが、こちらから提出した詳細な損益計算資料と利益の実態を説明することにより、当初の提示よりも500万円以上の増額を勝ち取ることができました。
この事案のポイント
この解決の鍵となったのは、確定申告上の所得にとらわれず、実際の所得水準を正確に主張したことです。
自営業者の方は、税理士と連携して節税対策をしていることが多いため、申告上の数字だけで損害額を判断してしまうと、大幅に不利な結果になることがあります。
したがって、自営業者の方が交通事故に遭われた場合には、表面的な数字ではなく、事業実態を反映した損害額の主張が極めて重要です。
まとめ
自営業者の方であっても、確定申告書の数字だけに縛られる必要はありません。
適切な資料を収集・分析し、論理的な主張を行うことで、損害賠償額を適正な水準まで引き上げることが可能です。
「申告所得が低いから、賠償金も仕方ない……」と諦める前に、交通事故に詳しい弁護士にご相談いただくことを強くおすすめします。