こんにちは。企業法務を中心に扱う弁護士の小田誠です。
突然ですが、こんな経験はありませんか?
「レジ前で、怒号を浴びせるお客様に対応し続けるスタッフ」 「電話口で1時間以上、謝罪を強いられるオペレーター」 「『土下座しろ!』と脅されて、何もできずに立ち尽くす現場責任者」
これらはすべて、**カスタマーハラスメント(カスハラ)**の一例です。
あなたの会社は、社員を守れていますか?
本記事では、実在する裁判例を紹介しながら、カスハラが企業に与える法的リスクと、今すぐできる具体的な対策について、わかりやすく解説していきます。
目次
カスタマーハラスメントの類型
下図は、カスタマーハラスメントの典型的な類型を示したものです(実務経験・報道事例をもとに再構成)。

- 暴言・罵倒(40%):人格否定、差別的発言、大声での怒号など
- 長時間の居座り(25%):1時間以上にわたる要求、他の顧客対応妨害
- 土下座の強要(10%):従業員に対する屈辱的行為
- SNS等での誹謗中傷(15%):企業名や個人名を挙げた投稿
- 金銭・サービスの不当要求(10%):返金以上の補償要求や不正なクーポン請求等
カスタマーハラスメントとは?
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などが、企業の従業員に対して、常識を超えた不当な言動や要求を行う行為です。
【よくあるカスハラの実例】
- 「てめぇ、名前言ってみろ!」と怒鳴る
- 返金を断ると「お前の会社、潰してやる」
- 「土下座しないならSNSで晒す」
- 1時間以上居座り、他の客にも悪影響
こうした行為は、単なる“クレーム”ではなく、明確なハラスメントです。
実在の裁判例に学ぶカスハラの法的評価
① 大阪高判平成27年1月22日(LEX/DB 25551673)
事件の概要:宅配ドライバーに対して、顧客が怒鳴り声を繰り返し、深夜にも電話をかけ続けた。
判決:「人格権の侵害」として慰謝料10万円の支払いを命令。
➤ 社会的に許容されないクレームは、立派な不法行為です。
② 東京地判平成24年7月18日(労判1059号67頁)
事件の概要:コールセンター職員が、毎日長時間怒鳴られ続け、うつ病に。
判決:企業の安全配慮義務違反が認定され、賠償が命じられた。
➤ 企業がカスハラを「放置」すると、法的責任を問われます。
③ 神戸地裁平成28年11月18日(平成27年(ワ)第705号)
事件の概要:患者が看護師に対して差別的暴言を繰り返し、精神的苦痛を与えた。
判決:慰謝料30万円を命じた。
➤ 医療・介護の現場でも、理不尽な言動は違法です。
法的構成と企業の対応指針
■ 法的構成
行為内容 | 該当しうる法的責任 | 根拠法令 |
---|---|---|
暴言・罵倒 | 不法行為責任(損害賠償) | 民法709条 |
恫喝・脅迫 | 脅迫罪、強要罪 | 刑法222条、223条 |
居座り・業務妨害 | 威力業務妨害罪 | 刑法234条 |
SNSでの誹謗中傷 | 名誉毀損罪、侮辱罪 | 刑法230条、231条 |
カスハラがもたらす、現実的なリスク
「安全配慮義務違反」で企業が訴えられる。
従業員の心が折れる。辞める。
現場の雰囲気が沈み、離職が連鎖する。
悪評がSNSで拡散。企業イメージが傷つく。
企業が取るべき実務的対策
1. 【マニュアル整備】
「10分以上怒鳴られたら録音を開始」「土下座は拒否して上司へ報告」など、明確なルールを作りましょう。
2. 【研修・ロールプレイ】
ただの座学ではダメ。ロールプレイで実践的な対応力を養うことが重要です。
3. 【顧客への掲示】
「従業員の人権を守るため、暴言には対応できません」と店舗に掲示するだけで、抑止力になります。
4. 【録音・録画体制】
「本日は録音させていただきます」と一言添えるだけで、相手の態度が変わることも。
5. 【社内エスカレーション】
現場で抱え込ませず、一定レベルで必ず上司・法務・弁護士へ報告する流れを作る。
6. 【相談窓口の設置】
「誰に相談すればいいかわからない」状態を放置しないこと。匿名でも相談できる環境づくりがカギ。
7. 【法的対応】
あまりに悪質な場合は、内容証明・警告書を弁護士名で送る。それだけで沈静化することも多いです。
【ポイント】従業員を守れば、辞めない。
実は、カスハラへの対策をきちんと講じている企業では、
- 離職率が下がった
- メンタル休職が減った
- エンゲージメント(仕事への前向きさ)が上がった
といった声が多数あります。
従業員は、「自分を守ってくれる会社」にこそ、居続けたいと思うのです。
まとめ
- カスタマーハラスメントは明確に違法と判断されうる
- 実在の裁判例では、10万〜30万円以上の慰謝料支払い命令も多数
- 企業は「毅然とした対応方針」と「具体的な社内体制」を整備すべき
あなたの会社は、従業員を守る準備ができていますか?
もし少しでも「不安」を感じたら、今すぐ見直すタイミングかもしれません。
カスハラ対策マニュアルの整備、社内研修、顧客対応の相談、顧問契約による継続支援など、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。