こんにちは。福岡の弁護士、小田誠です。
企業法務に携わっていると、非公開会社(いわゆる中小企業)での「株主間紛争」に関するご相談を頻繁に受けます。
特にトラブルの火種になりやすいのが、「誰が株主なのか」「いつ、誰から株式を取得したのか」という“株式の所有権”に関する問題です。
実は、非公開会社の多くは法定の「株主名簿」を適切に整備していないため、紛争になったときに大きなリスクを抱えていることをご存知でしょうか?
本記事では、会社法の原則と判例を踏まえつつ、株主間紛争の予防・対応策を弁護士の視点で詳しく解説します。
目次
1. 株主名簿とは何か?非公開会社にも作成義務がある
株主名簿とは、会社が作成する「株主の記録簿」のことです。
記載すべき情報は以下のとおり(会社法第121条):
- 株主の氏名・住所
- 株式の数
- 株式の取得日
- その他必要事項
非公開会社でも、株主名簿の作成・備置は法律上の義務です。ところが実務上、多くの中小企業では作成されておらず、株主名簿を見たことがない社長も珍しくありません。
2. 株主名簿を整備していないと起こる3つのリスク
① 株主構成を勝手に改ざんされるリスク
名簿が存在しないと、「◯◯さんに株式を譲渡した」と主張されても、誰も検証できません。
② 過去の株式の移動履歴がわからない
株主間で譲渡があった場合、株主名簿がないとその正当性を後から証明するのが困難です。
③ 紛争時に自分の立場を守れない
株主総会の開催、議決権行使、配当請求など、「株主であること」が前提の権利行使ができなくなるおそれがあります。
3. 紛争になったとき、自分が株主だとどう立証する?
「私は株主です」と主張するだけでは不十分です。以下のような証拠が重要になります。
有効な立証資料:
- 株券(※ただし現在は発行会社がほぼゼロ)
- 株式譲渡契約書
- 株式取得の対価の振込記録
- 株主総会議事録における出席記録
- 配当金の支払記録
- 株主名簿の写し
しかし、これらの証拠が全て揃っているケースはむしろ稀です。とくに譲渡契約書が口約束にとどまっている場合、「株主ではない」と相手に主張されると防御しきれません。
4. 実際の判例:株主であることを否定されたケース
東京地裁平成19年6月22日判決
この事案では、原告が「自分は株式を取得した」と主張しましたが、被告会社側は「譲渡を承認していない」と反論。裁判所は「株主名簿の記載がない」「譲渡契約書も存在しない」ことから、原告の主張を退けました。
👉 詳しく読む:裁判所判例検索システム
このように、株主名簿がない状態では、真実の株主であっても「存在しない」ものとして扱われる危険があるのです。
5. 株主名簿の改ざんは防げるのか?
結論から言えば、名簿の適切な整備と、譲渡時の書面化が最大の防御策です。
- 株主名簿は登記簿とは異なり、社内で作成・管理される私文書です
- 改ざんの余地があるからこそ、第三者の立会いや弁護士の関与が有効です
- 公証人による日付証明をつけることで証拠力が強まります
6. 今すぐできる!株主間紛争の予防策
✅ 株主名簿を必ず整備する
定期的に更新し、法定記載事項を網羅しましょう。
✅ 株式譲渡は書面化・押印する
契約書を弁護士にチェックしてもらうことで、後の紛争を防げます。
✅ 株主間契約(株主間合意)を締結する
「株式の譲渡は事前承認を要する」など、トラブルを事前に抑制できます。
7. 弁護士に相談すべきタイミングとは?
以下のような場合には、早めに企業法務に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。
- 株主間で意見の対立がある
- 譲渡された株式についてトラブルがある
- 株主名簿を長年更新していない
- 代表取締役の交代を巡って揉めている
👉 ご相談はこちらから
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まとめ:株主名簿の整備は、会社の「命綱」です
非公開会社における株主間紛争は、「見える化」されていない株式の移動が最大の火種になります。
株主名簿の整備は、法的義務であると同時に、**会社と株主の身を守る「保険」**でもあるのです。
ぜひ、この記事を機に御社の株主名簿の状態を見直してみてください。
わからないことがあれば、弁護士がサポートします。
なお、現在は株式会社設立時に株主リストの提出も義務付けられています。
参考:法務省「株主リストについて」
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